宮崎簡易裁判所 昭和41年(ろ)104号 判決
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〔判決理由〕(罪となる事実)
被告人は昭和四一年六月一九日午後七時ころから翌二〇日午前七時ころまでの間宮崎市末広町一丁目一三番地靴店奥盛義方において、同人所有の扇風機一台、男物短靴九足、半長靴二足、女物靴二足時価合計六万九百円相当を窃取したものである。
(証拠)
(一)まず
一、奥盛義の被害届
一、同人の司法巡査に対する昭和四一年六月二四日付供述調書
一、同人の検察官に対する供述調書
によれば、判示の昭和四一年六月一九日午後七時ごろから翌二〇日午前七時三〇分ごろまでの間に、判示奥盛義所有の判示各物品が、なにものかによつて窃取された事実を認めることができる。
(二)次に
一、植松健次郎の司法巡査に対する昭和四一年七月八日付供述調書
一、同人の検察官に対する供述調書
一、山崎貞雄の司法警察員および検察官に対する供述調書
一、山崎トミ子の司法巡査に対する供述調書
一、司法巡査清武節夫作成の六月二四日付(三通)、司法警察員田辺猪都夫作成の六月二四日付(一通)、司法巡査花房義夫作成の七月八日付(一通)の各領置調置
一、被告人の当公判廷における供述
によれば、被告人は前記盗難のあつた直後被害品を間借りしていた内田キクヲ方に所持していたが、二、三日中に男物短靴四足を数人の者に譲渡(六月二一日に一足を植村健次郎に、六月二三日に二足を山崎貞雄に、同日一足を山崎紀一に)し、その余の被害品は、自己の部屋に置いてあつた事実を認めることができる。
(三)次に
一、被告人の司法警察員および検察官に対する各供述調書
一、被告人の当公判廷における供述
によれば、被告人は逮捕されて以来終始自己が窃盗犯人であることを否定し続け、前記のように本件被害品を所持していた理由については、パチンコ店で知り合つた阿部某から他に処分方の依頼を受けていたものであると主張しているので、その点について検討する。
一、植村健次郎の昭和四一年九月二日司法巡査に対する供述調書
一、藤本道夫の司法巡査に対する供述調書
一、証人内田キクヲの当公判廷における供述
一、証人中山貞男の当公判廷における供述
によれば、阿部某が被告人の借家に来たこともなく、更らにその人物を誰も見たこともなく、従つて誰もが阿部某を全然知らないことが認められ、
一、前掲山崎貞雄の司法警察員および検察官に対する供述調書、並びに藤本道夫の司法巡査に対する供述調書
によれば、被告人は被害品の靴をそれぞれの者に対し譲渡するとき、被害品の所持の理由につき若い者から売却を頼まれて預つているものである旨(藤本に対しては矢野組の云々とある)述べているけれども、被告人の供述によればパチンコ店で知り合つた四〇歳位の住所や職業のわからない阿部某から処分を頼まれたとあつてくい違つているし、なお、阿部の服装と体格のみをばく然と示すのみで、名やその他の具体的内容等明らかにできず、さらに阿部が本件盗難のあつた夜、被告人方を訪れた時の状況や阿部が処分を依頼するときの言動に対する被告人の供述に不自然なものがあつて合理性に欠く点が多いこと、それに加えて、他の全証拠を点検するも阿部が実在していることを認めることができない。
もし、かりに阿部が実在する人物であつたとしても
一、昭和四一年九月一七日付司法警察員原口享作成の鑑識資料採取についてと題する報告書
一、鑑定人蛯原一男作成の鑑定書
によれば、被害現場の勝手口入口附近に存在した靴跡が被告人がかりている部屋の隣部屋を借用し居住していた中山貞男所有のゴム半長靴の裏底と一致していることから同一の靴跡であることに疑をもつ余地は全くないのであるから、阿部がその夜盗難直前に内田キクヲ方に侵入して右ゴム半長靴を履き、被害者店で本件被害品を窃取し、直ちに被害品を被告人の部屋に持参したことになるわけであるが、阿部につき前記の如く同家にいた内田キクヲや中山貞男が全然知らないこと、阿部の行動が前記の如く経験則上考えられない不自然なことからして、阿部が窃取して被告人の部屋に持参したという賍品の入手経路に関する被告人の供述は真実であると認めることはできない。
(四)そうすると、次に本件窃取は被告人の行為であるかどうかということである、そのことについて検討するに、
一、前掲証人中山貞男、同内田キクヲの各当公判廷における供述によれば、
一、押収にかかるゴム半長靴(証第一号)
を被告人が二、三回使用したことがあること、殊に中山証人の供述によれば、被告人は六月二〇日朝に二、三日前にかりて履いた旨を告げたので靴を見たら中山が延岡に帰省する前に水洗しておいたのが汚れていたこと。しかも一九日は雨天であつたこと、内田キクヲ宅を訪れた者の中で右ゴム半長靴を借用して使用したものがないこと、勿論中山もはいていないこと、その靴は階段上り口の土間に置いてあつて、被告人は何時でも使用できる状態であつたこと、
が認められ、
一、前掲奥盛義の検察官に対する供述調書
によれば、被告人の間借りした家屋は被害者の店舗から徒歩にて五分を要する程の近距離に存在し、且、被告人はその店に隣接する食堂で常々食事をしており、六月一二日頃からは被害者の店に日掛の靴代を二日毎位に持参していたことからして被害者の店舗内の状況はよく承知していたこと、なお被告人はその際自己の所有する短靴を履いて来ておりゴム半長靴を履いて来たことがないことが認められ
一、司法巡査橋口幸隆作成の実況見分調書
一、前掲鑑識資料の採取についてと題する報告書
一、前掲鑑定書
によれば、被害者方の勝手口入口附近に、多数の同一の足跡があつて、その靴跡と前掲押収の中山所有のゴム半長靴の裏底とが一致することが認められ、靴の譲渡を受けたことについて述べている。
一、前掲(二)記載の植松健次郎、山崎貞雄、山崎トミ子の各供述調書
一、前掲証人中山貞男の当公判廷における供述
によれば、本件被害品を盗難の日の翌日から無償譲渡したり売却方を依頼した時の被告人の態度が他に処分を頼まれて依頼するものでなくて、被告人自らが窃取して処分を依頼するものに感ぜられる状態であつたこと、
一、前掲藤本道夫の司法巡査に対する供述調書
にれば、盗難後の被告人の態度が狼狽し、逃走することに躍起となつていたこと、
被告人所有の
一、押収にかかるゴム半長靴(証第二号)
について、被告人の供述よればその先の部分が破損していて雨の日の外出に使用せずに中山所有の前掲ゴム半長靴を無断使用したことがそれぞれ認められ、
なお、被告人の警察、検察庁で作成された供述調書の内容、当公判廷での供述内容の経過に多少くい違つている部分があること、そして実在しないか、実在していたとしても本件窃盗犯人と認められない阿部を殊更に窃盗犯人であるものとして合理的に真実づけるべく努力していることを十分うかがうことができること、
以上各判断した点に、前記(一)、(二)、(三)についてそれぞれ判断したことと、それに被告人の当公判廷における供述態度を併せ考えるに、本件窃取は被告人の行為であることを十分に肯定することができ、被告人の供述以外には反対の証拠もなく、認定に反する被告人の供述部分はすべて信用することができない。
よつて、本件判示事実を全部これを認めることが出来るのである。(佐多春見)